Arapedia

１．スポーニング突入とポーキーズTシャツ


釣行の前夜にあった赤侍からの電話は、野望と期待を打ち崩すには十分すぎる破壊力があった。


『この前までの絶好調がウソのように、GTは渋い状況になっているらしいよ。
　今日はポーキーズがBULEDRAGONに乗っただろ？

　結果はポーキーズがワンバラシしただけらしいよ。

　マンブーキャプテンも「スポーニング突入かなぁ、これは渋くなる・・・。」
　とつぶやいていた。ヤバいぜ・・・。』

先回のBULEDRAGON乗船時に、派手なバイトを経験して期待感が最高潮な状態の私にとっては、GTキャッチが一歩退いていく感覚にとらわれる情報である。

しかし、沖縄が誇るトップデザイナー集団L.S.D代表のポーキーズ先生が何回かGTを出した。

しかもバラしている事実もある。

少し考えてから、私は自宅の収納から、以前にポーキーズ先生から頂いたL.S.D社Tシャツを引っ張り出した。
ポーキーズ先生が出した事実、魚はもしかしたら水中からアングラーを確認しているかもしれない・・・。


『彼の当日の服装は良くわからないが、魚に目立ちにくい服装をしていたのではないか？・
・・となると、彼が着ているであろうTシャツはL.S.DのTシャツであろう。
しかし、私は昨年度バージョンは所有していないから、その前のデザインか・・・。
果たして大丈夫であろうか？』


理屈をこねようとしているが、簡潔に言うと　『ゲンを担いだだけ』　である。

タックルの準備をする前に、ポーキーズTシャツを引っ張り出す−。

少々順番が違う感じ

もするが、とりあえずはGT捕獲に向けてサイドブレーキを降ろしたのである。


２．荒れる海況

赤侍の家に向かう道中で、

『早く迎えに来て！もう待ちきれない！』

という趣旨のメールが、赤侍から届く。

彼が本日の釣行に懸ける意気込みは、相当なものであった。

数日前からブログにて、自身を高揚させる記事を数回もUPして、GTキャッチに備えていた。
いや、むしろGTキャッチの記事は『すでに出来上がっている』のでは？とすら思える鼻息の荒さである。

しかし前日からの状況が、どうしても二人の思考を支配してしまう。

『一発に賭けるしかないね・・・。なんとか出そうぜ、そしてキャッチしようぜ・・・。』

赤侍をピックアップして港に向かう車内での会話は、スポーニング情報に少しでも抗いたい、しかし期待は薄いのではないのか？という灰色の雰囲気であった。

やはりいつもより口数が少ないままに港に到着。


そして朝５時３０分−。

BULEDRAGONが停泊している糸満フィッシャリーナに、本日のGTチャレンジを行うアングラーが集まった。



本日の乗船メンバーは以下の通り、

千葉県からGTを求めて沖縄訪問を繰り返す、『魂をGTに捧げた男』

セクシー細川。


マンブーキャプテンに『彼女は魚運がある！』と言わしめる、HAMMER HEADハイテンションレディー

他の人の蕎麦を食らうアキさん。


いつでも冷静、感情は家の引き出しに片付けてきた・・・、

精密マシーンな私アラーキー。



そしてお待ちかね！
世界はもう彼の説明など必要としない・・・、

沖縄が誇る世界基準のトラブルメーカー、

『アレルギー』という単語ぐらいまともに喋ろうぜっ！

　赤侍


イィィェェェェェィィィイ！、

アルレギィーッ！


アルレギィーッ！


アルレギー？

船長は皆様おなじみ沖縄の野獣、血の香りと、

食べ歩きが大好きな　キャプテンマンブー。


『今日は風も強く、GTはスポーニングに突入した可能性も大きい。
　渋いかもしれんが、ワンチャンスを大切にして行こう！』


マンブーキャプテンの渋い状況を危惧した言葉のあと、
BULEDRAGONはエンジンに火を入れて、
荒れた東シナ海にその船体を滑り込ませた。

やはり南風の影響で海面は波立ち、
バウンドを繰り返す船底を叩き付ける衝撃が頭の先まで伝わってくる。

強風に消され無いように大きな声で本日の乗船メンバーに挨拶を行い、
システムを仕上げてからドカリとアフトデッキニ腰を下ろして、
安定した姿勢をとるためにキャビンのドアにもたれかかった。

『さて、とりあえずポイントに着くまで睡眠をとっておこうかな。』

と呑気に考えていたら、エンジンの音が一段下がった。

さっそく本日のポイントに到着したのである。

『はい、２３メーター。風下にキャスト！』

キャプテンの声が掛かると同時に、HAMMER HEAD　E-cup　を放り込む。

ミヨシに陣取るのは私、二番座に赤侍。
アフトデッキにはあきさんと細川さんが入る。

私がキャストを終えてから約30秒後、
この日のファーストバイトがあきさんのHAMMER HEADに襲い掛かった。

さすが『魚運がある女』あきさん、一流し目の第一投でいきなりのバイトである。

『出たねぇ～。やはり運のある人間は強いな。』

横でキャストする赤侍が、期待と野望を纏ったギラ付きを持った目で私に声をかけてくる。

『今日はやってしまうんじゃないの？赤侍！
　気合の　侍Tシャツ　も着ていることだし！』

そうは言いながらも、私のテンションもレッドゾーン付近までその回転数を上げる。


しかし、予想とは裏腹に、ここから船上は長い沈黙を始めることになった。



３．ツムブリ


ポイントを潰しながらBULE DRAGONは波立つ海面を進む。
船上のアングラーは、ルアーを投げ、そして曳き、また投げる・・・。
疲労の蓄積と、精神的なダメージが船の空気を重たいものにしていく。

気分転換のためミヨシとトモのポジションをチェンジして、
赤侍がアフトデッキ、私がトモの位置でキャスティングを開始。

その流しの第６投目－。

赤侍のルアー、HAMMER HEADチェリーパイ　にツムブリが海面を割って飛び出した。


うおぉぉぉぉ～！！


思わず声を上げてしまった。

手前１０ｍくらいのところに、
結構なサイズのツムブリが完全に魚体をあらわにしたからである。

そして、ルアーを回収する寸前に赤侍が叫ぶ。

『なんか（ルアーの）下に付いてた！』

しかし　その魚　はルアーに喰い付かずに海底へと姿を消してしまった。


『ツムブリが跳ねたりした時は、その下にデカバンのGTが付いている可能性が高い。お前のルアーの下に付いていたのは、たぶんGTだろう。』

マンブーキャプテンの言葉に、赤侍は悔しさを滲ませてチェリーパイを見つめていた。

『しまったなぁ～。ぅふぅぅぅ～・・・。　
　
　チョンチョンアクション
　
　で誘えば良かったなぁ～。
　惜しかったなぁ～。

　はぁぁぁあ～～。』　


なぜか赤侍は、

私の耳元に熱い吐息を吐き出しながら囁き続ける。

（最近、親友である鉄人が　完璧な『ゲイ』　であることが判明した（※詳細は近日公開）。
それ以降、赤侍の振る舞いや言動も常識を逸脱したものが多くなっている。私はゲイであってもバイであっても、マイノリティーの気持ちは十分に尊重し・・・。後略）

そしてもう一度　そのポイント　を流す直前、マンブーキャプテンが甘い誘惑を私に投げかけてきた。

『さぁ、アラーキーが悩んでおります。
　チェリーパイ（ジャークベイト）を投げようかと悩んでおります（笑）』


－私は実際に悩んでいた。

この状況なら、やはりジャークベイト系を投げるべきであろう。

私はとにかくGTサイズを経験したいから、トップへのこだわりなど捨ててジャークベイトを投げる方が良い選択なのではないか？

しかも初心者（経験1年、実釣果　3キロ！）の私が、トッパーの意地なんておこがましい限りではないか。


本日準備したルアーはたったの４本、

HAMMER HEAD　E－cup　、
SARA POP２００×２、
HAMMER HEAD CHERRYPAY。


トップが中心ではあるが、ジャークベイト系がないわけでは無い。

そして、収入的にサブタックルを持てない私は、
この移動の間にすばやく結論を出し、
キャスト開始までにルアーチェンジを行わなければならない。


結論から言うと、私は現在ロッドの先にぶら下がっている
　　HAMMER HEAD　E－cup　を曳き続けることにした。

トッパーの意地と、HAMMER HEADに賭けてみたのである。


申し訳ない・・・。

このように書くと凄く格好よく聞こえるが、
実際の決意の９８％を占めていたのが、


ルアーチェンジが
面倒だから！


という、


劣悪な事実！
（みんな！ゴメンねぇ～！！）


とにかく、『今日は一日中ポッパーを投げ続ける』ことにしたのである。

しかしその後、バイトすらないという沈黙の時間が、BULEDRAGONを飲み込んでいった。



４．食べる女



『ごめんっ、これ誰のお蕎麦!?

　わたし間違えて誰かのお蕎麦食べてしまったぁ～！

　ゴメン！』

デッキから、あきさんが申し訳なさそうな顔で、メンバーに尋ねる。


私は大盛りのそばを持参したのが、誰か知っていた。

船に乗るときは必ずそれを持ってくる男がいるのである。




赤侍。


いつも以上に、おどおどと挙動不審な目線の赤侍が、
口をパクパクさせて何か訴えている。

『タシローさんゴメンねぇ～。

　私の持ってきた　とろろ蕎麦　食べて！

　ホントゴメンねぇ～！！』

平謝りのあきさんに、いいよいいよと声をかけていた赤侍であるが、


なぜか不安そうな目つきをしている。


『よかったですね、赤侍。とろろ蕎麦のほうが美味しいですやん！』


と声をかけると、赤侍はその不安を口にした。


『アラーキー・・・。俺、オレ、とろろが食べられるかなぁ？

　心配なんだよなぁ、アルレギーが・・・。
　
　船の上でアルレギーが出たら大変なことになるだろう？

　心配だなぁ、アルレギー・・・。』



アルレギー・・・。



意味はわかってもらえる可能性は高い。

しかしその言い間違えはほとんど耳にしない。

まさかの　赤侍の造語　か？しかも３回も連発。


『アレルギーでしょ？それ。』


と私が言うと、


『うん、そう、アルレギー。

　俺、キュウイフルーツ食べてもでるんだよ、

　アルレギー。』

ここまで感覚がおかしいと、もはや



同じ言語で話している気がしない。



午前の爽やかな陽光が差し込む時間もやがて過ぎ、
GTの反応が途絶えたことによる沈鬱な感情と本能の底から来る諦観が、
メンバーそしてキャプテンの意識を包んでいた。

いまだ風は強く、波も高い。

はたして本日のGTは、あの赤侍のチェイスしてきたデカバンで終了なのであろうか・・・。

希望と魂を込めて、アングラーはルアーを海に放り込み続ける。

そして、とろろ蕎麦を食べた赤侍は、

『喉がかゆい・・・。アルレギーかなぁ。』

と意味不明なことを言い出す。

いよいよ夏の力強さを纏った太陽が、南中に達した。


～続く～





次回～
・ヒット


なんと今日のお昼にUPします！

いつもながらの長文を、ご了承ください。