Arapedia

１．代打

テーブルに置かれた私の携帯が、着信を示すランプの点滅を繰り返している。


『着信　アセロラ御大』


画面には、発信者の名前が表示されていた。


「はい、アラーキーです。」


「ひぃ、ひぃ、ふぅ〜、・・・。ひぃ、ひぃ、はぁ〜。

　はぁ、はぁ、アラーキー・・・。
　セクシーだよ、セクシーすぎるよぉ！・・
　ぉうっっ！・・・・。」



私は無言で接続を切った。


そして再び着信。

「もしもし、アセロラさん。どうしましたか？アセロラさん、大丈夫ですかっ！」


「ふぅ〜、・・・先ほどは失礼。急な話しやけど、再来週は船に乗れるか？」


「はい、可能だと思います。ＧＴですか！？どの船に乗るのですか？」


「今度ね、大久保幸三氏が沖縄に来るんやけど
　メンバーに欠員が出たらしいんや。
　そやけど俺と　バカ侍　赤侍は乗れへんのや。
　アラーキー、乗ってみいひんか？プロの世界を見るチャンスやで。」



「ありがとうございます、御大！しかし一日だけ待ってください。
　嫁の許可　スケジュールの確認が必要なのです。」


「わかった。ほな、決まったら連絡くれるか？
　待ってるで。船はマンブーのとこや。」



ついに来た・・・。



ＧＴフィッシングのプロアングラーとの同船、
そしてBLUE DRAGON　へ再度の乗船。


この究極の組み合わせには、緊張しない理由が見当たらない。

少し興奮気味に　嫁の許可　スケジュールの確認を行い、
嫁が　スケジュールがＯＫであることを確認できた。


翌日、アセロラ御大に　『乗船ＯＫ』　の連絡を入れ、乗船依頼を伝えた。



いよいよ運命の重い歯車が、重厚な軋みの音を伴って回りだしたのである。


こんなに早い段階で、プロアングラーと同船。

しかも、乗船予定者の突発的なキャンセル、
そして乗りたいと思っている人たちも都合がつかず、打順が私に回ってくるとは・・・。



私は運がいい・・・。



「このタイミングを逃すわけにはいかない、ＧＴを仕留める絶好のチャンスだ。
　しかし、その週は優理丸にも乗るから、そちらで初ＧＴを仕留めるのかもなぁ。」


自分勝手で都合の良い妄想を繰り返しながら、タックルの準備と整備を着々と進めた。



２．重量級

私の緊張感の高鳴りと正比例して、出航日前から波と風が上がってきた。

マンブーキャプテンからは　『出航は厳しいかもしれない。』　との連絡が入る。


そして、いよいよ出航前夜、チームメンバーの赤侍氏から入電があった。



「大久保幸三さんが、『クブシミが釣りたいので、ガイド願います。』と言っている。
　翌日の顔合わせも出来ることだし、アラーキーも一緒に来ないか？」


赤侍氏の声は、興奮を抑えるのが精一杯という感じである。


「わかりました、仕事を終えてから合流します！ちょっと、緊張しますねぇ。」


私は、急いで仕事を片付けて帰宅し、エギングタックルの準備をした。




23時30分−、那覇市Ｉポイント。



『今から北部を諦めて南下します。先にポイントの状況を見て、連絡を下さい。』

という赤侍氏からのメールが入ったので、クブシミの定番ポイントである　Ｉポイント　に向かった。


現場に到着すると、『よく見かける車』がたくさん駐車されていた。



「あれは、分裂騒動を起こしているＷＣＣ（ウェストコーストコネクション）　
　の連中だな・・・（微妙な領域に踏み込んでしまいました！）。
　ちょうどよかった、状況を教えてもらおう。」


釣座には、ＷＣＣ1号、2号、3号、4号がそろってロッドをシャクッていた。


「こんばんはアラーキー、さっきからアタリはあるよ。乗らんけどね！」


ＷＣＣの重鎮、4号（通称ドンキング）から状況を教えていただく。


そして待つこと15分、赤侍氏がガイドを勤める一行の車が現場に到着した。


「入れそうですか？」


赤侍氏が私に声をかけた。


「はい、ドンキングが好意で　座　を譲ってくださるそうです。状況もボチボチ良いみたいですよ。」


その後方から、見慣れた野獣と、初めて遭遇する野獣の姿が近づいてくる。


「おぅ、アラーキー。久しぶり、明日はよろしくな。」


「ご無沙汰しています、マンブーキャプテン。明日はよろしくお願いします。」


「・・・明日は出航しないかもよ。　」



「えっ！たった今、　『明日はよろしく！』　って言ったじゃないですか！」



「明日は、風もウネリも上がる予報が出ている。
　無理は禁物、様子を見て決めよう。
　彼が大久保幸三、そして同船のカツオだ。」


「アラーキーさんですか？　大久保幸三　です。
　明日はよろしくお願いします。」


「　カツオ　です。明日はよろしくお願いしますね。楽しくいきましょう！」



両方とも、プロレスラーのように両肩の筋肉が　『異様に盛り上がっている』　イカツイ体系からは想像できないほどの、マイルドな語り口であった。



「アラーキーです、明日はよろしくお願いします。
　とても楽しみにしていました。」


緊張気味のあいさつを終えて、クブシミ狙いでロッドを振るものの、
結果として釣ることは出来なかった。


（ＷＣＣメンバーの空気を読まない　『釣ってしまったクブシミ事件』　は割愛）


結局、翌日早朝にマンブーキャプテンが状況を判断し、
出航の可否を連絡するとのことで、深夜1時にＩポイントで分かれた。


自宅に戻り、タックルのパッキングと明日の　『妄想』　をしていると興奮してしまい、
結局は一睡も出来ないまま、早朝のマンブーキャプテンからの電話を受けとった。



「おはようアラーキー、今日は無理だな。中止！」


「えぇ〜・・・。まぁ、仕方が無いですね。
　わかりました、次の機会に誘ってください。」



以前、米軍がハリケーンの中心に爆弾を打ち込みその勢力を奪おうとしたが、
結局は失敗したとの話しを聞いたことがある。
やはり人間はいくら望んでも、所詮自然には逆らえないのであろう。

しかし1時間後、マンブーキャプテンから「とりあえず出航してみるぞ！
スグに港に集合。」との入電があった。



私は運がいい・・・。



紙一重で出航が決断されたのである。


私は大急ぎで自宅を飛び出し、
BULE DRAGON が停泊している港へと車を走らせた。

そして港に着くころにはすでに、大久保幸三氏とカツオ氏、マンブーキャプテンが出航の準備をしていた。


この後、昨日の初対面で受けた『マイルドな印象』が、
幻想であったことを思い知らされる出来事の連続が、
私の身に襲い掛かってくるのであった。



〜続く〜



次回

・ ヒット

・ レジェンドの指示

・ ＧＭ