チェ・チョリーナ・のり子
チェ・チョリーナ・のり子さんからの依頼
依頼メールの内容
私、最近気になってるひとがいるのです。
今年44歳になる少しラクダ似の方で、
「風の層」が見えたり「2枚潮」を感じたり、
「大変なことになっているぞ!」と大騒ぎをするんです。
かわいいでしょ。
でも、最近、サイボーグかもしれないなんて言われたり、そして、その〜、実はゲイなのでは?とも噂されているの。
イヤダ、のり子、ゲイだなんて…、恥ずかしいっ!
お願いします、どうか彼の身辺調査をして下さい。
Act1 チェ3000
PCのメッセージBOXに届いたのり子からの依頼メールを読み、私はおもわず首をかしげてしまった。
「う〜ん…。これは、チェ3000のことじゃないかな…。」
早速、私は研究員の タシルー を呼び、依頼者であるのり子からのメールを読ませた。
そして画面を見つめるタシルーの横顔に、自分の考えを話してみた。
「この女性が探しているのは、当社の烏賊釣りマシン『チェ3000プロトタイプ』のことじゃないか?」
タシルーは、画面から目を離さないで、コーヒーを一口飲み、少し間を置いてから答えた。
「アラーキー博士が考えている通り、おそらく例のチェ3000のことでしょうね。しかし…。」
タシルーが少し怪訝な表情になる。
「しかし、何だね?」
タシルーの言葉が終わるのを待てずに尋ねる私とは対照的に、タシルーはゆっくりと話しを続ける。
「博士、依頼文のここをよく読んでください。そう、ここです。」
タシルーが画面に表示されている一文を指で軽く叩いた。
『大変なことになっているぞ!』
二人の周囲に、一瞬にして重苦しい空気が立ち込んだ。
「タシルー…、君も気が付いたのか。まさか、プロトタイプがまだ残っていたとはな…。」
不安を払拭するためのように、タシルーは少し早口で私に話し出した。
「現在の普及バージョンチェ2850は、制御プログラムが確立されていますが、プロトのそれは不完全です。
購入者からの指摘で、世間に露呈してしまいましたが、『大変なことになっているぞ!』のチェボイスは暴走の前兆です。」
自分を落ち着かせるべく、タシルーは、一度話しを止め、トーンを落としてから再度話し出した。
「あの悪夢のようなチェ3000の暴走で、一時期サイバー・アラーキー・ダイン社の株価はストップ安を連発して、上場廃止寸前まで追い込まれました。
ようやく盛り返したこの時期に、『全機回収済み』のはずであるプロトの暴走は、良いファクターにはなりませんよ。しかも…。」
タシルーは、さらに声を低くした。
「存在しないはずのチェ3000が再度の暴走、そして事故は世界的な問題になるでしょう。
…博士、プロトタイプの動力は小型核融合炉ですよね…。」
私は出来るだけ平静を装ってタシルーに話す。
「…、そうだな。私たちはS・A・D社の株主配当金やチェ2850の特許使用料で研究と探偵業を続けている。
…タシルー、マズイことになる前に、チェ3000の回収に行ってもらえるか?最悪の時は、君の判断でチェ3000をエリミネート(抹殺)してくれ。そして、…場合によっては依頼者も…な…。分かるな。」
タシルーは、私の目をみて無言で頷いた。
「頼んだぞ、タシルー。依頼者の連絡先は、沖縄県中部、通称 ガンダーラ だ。」
私の話しが終わるのを待たずに、タシルーは白衣を脱いでガレージに向かいはじめた。
「おい、まだ話しは終わっていない。タシルー、釣竿は持って行くなよ!おまえはロッドを持つと、すぐ子供になってしまう。」
ガレージから、ブガッティのエンジンの爆音が響き、ホイルスピンをさせながらタシルーは事務所を飛び出した。
「頼んだぞ、タシルー…。」
離れて行く青い車体を窓から眺めながら、私は冷めたコーヒーを口にした。
そして、3時間後−。
タシルーから、調査の途中報告のメールが届いた。
『エヘッ、エヘッ、エヘヘッ。僕タシルー!今からお船に乗って、ガンダーラに行くんだよぉ〜。いいでしょう!おっきな烏…、いっぱい調査して帰るから、待っててね。』
「あのクソガキ〜、ロッドを持って行ったな〜。あれほどダメと言ったのに!」
私はBGMで流していた組曲〜アルルの女〜を止めて窓から外を眺めた。
「仕方ない…。うまくやれよ、タシルー…。」
どんよりと曇った冬空は、調査のこれからを暗示するかの様に、重く冷たい…。
〜続く〜
次回
Act2 のり子の島
・のり子の不自然な行動。
・やる気はあるのか?タシルー。
・そして、暴走間近のチェ3000の存在は?
お楽しみに。
鉄人よ、
まさか普通で終わるとは、
思っちゃいないだろう?
Tuned by 変態烏賊書房
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